MEKHANES NAVISメーカネース・ナーヴィス

トリガーワード――個人の術式から規格式へ

トリガーワードは、言葉とマナ操作を結びつけ、言語化された手順によって魔術を行使する系統である。術者は詠唱を通じて対象や範囲、強度などを指定し、現象を起こす。四形態の中では、術式の解析や伝授、サイバネによる再現に向いている。

ただし、初めから他者と共有できる技術だったわけではない。現在広く使われている「規格式」は、個人の術式を解析し、人から人へ伝える試みの中で形になったものである。

四形態全体の位置づけと共通の制約については、魔術体系を参照。

規格式が生まれるまで

初期の術者たちは、各々の力を分析し、自分なりの術式へと定式化していた。もっとも、そこで整理された手順は、術者本人の感覚や理解に深く結びついていた。同じ言葉を唱え、書き残された手順をなぞっても、他者には扱えない。定式化されてはいても、その内実は個人主義的なものだった。

解析が進むにつれ、トリガーワードの行使者の間にも派閥が生まれた。術式をどのような単位に分けるか。強度や対象をどこで指定するか。言葉とマナ操作の対応をどう整理するか。個々の術を読み解く方法の違いは、やがて、術を組み立てる方式の違いになっていった。

その過程を支えたのが企業である。資金や研究の場を得たことで、解析と共有は進んだ。一方で、企業が術者や研究成果を取り込んでいく過程は、助力とも、収奪とも言える。現在、ある企業の名で知られる規格式が、その企業自身の発明とは限らない。

こうして多くの術式は、いくつかの共通した方式へと収斂した。これが規格式である。同じ規格式を学ぶ者同士なら、共通の組み立て方に沿って術式を理解し、伝えられるようになった。

以下では、代表的な三つを紹介する。このリストは、規格式のすべてを網羅するものではない。

アセンブリ

複数の部分式を任意に組み合わせ、一つの術式を作る規格式。現象の種類、強度、範囲、作用のさせ方などを、それぞれの部分式が担う。

起源はミルフィッカ兄弟とされている。ただし、同社はM&Aの過程で多くの企業を取り込んできた。おそらくは、そのうちの一社が持っていた系統であり、実際の発祥ははっきりしない。

呪文の例

呪文 部分式と効果
《ファイアボルト》 火の(ファイア)矢を飛ばす(ボルト)。
《フルオルアイスバレット》 広範囲に(オル)、強力な(フル)氷(アイス)弾を飛ばす(バレット)。
《エクステレキュア》 遠距離の対象の(テレ)傷を、非常に大きく(エクス)癒やす(キュア)。

部分式の役割がわかれば、長い呪文も要素ごとに読み解ける。術を組むときにも、必要な作用に応じて部分式を選び、組み合わせていく。

ここでは英語をもとにした語で例示しているが、アセンブリは英語でなくとも成立する。そもそも、この表記は作中人物が英語で話していることを意味しない。

離散(ディアクリタ)詠唱

「基礎術式+強度+接尾辞」の形で組み立てる規格式。基礎術式で起こす現象を定め、強度を指定し、接尾辞で範囲や距離などの条件を加える。接尾辞は複数付けられる。

起源はアルケーン・テクネ。星間文明以前から存在する、古い企業である。

呪文の例

呪文 構成 効果
《パイロⅠ》 パイロ(基礎術式)+Ⅰ(強度) 火の矢を飛ばす。《ファイアボルト》に準ずる。
《パーゴスⅡ・エヴリス》 パーゴス(基礎術式)+Ⅱ(強度)+エヴリス(広範囲) 広範囲に強力な氷弾を飛ばす。《フルオルアイスバレット》に準ずる。
《セラピアⅢ・マクリノス》 セラピア(基礎術式)+Ⅲ(強度)+マクリノス(遠距離) 遠距離の対象の傷を非常に大きく癒やす。《エクステレキュア》に準ずる。

基礎術式、強度、追加の条件が分かれているため、どの箇所で何を指定しているかが読み取りやすい。複数の条件を加えたいときは、接尾辞を重ねていく。

例示されている語はギリシア語に由来する。本家のアルケーンはギリシア語こそ正当なものだと主張しているが、規格式そのものは、ギリシア語以外でも動作する。

律詩術

自然言語で術式を記述する規格式。普段の言葉で詠唱でき、通常の会話の中に混ぜ込むこともできる。

山海冒険集団幻想公司の共同開発によって成立した。ある魔災害に際して幻想公司が出資し、山海が研究を担い、その成果を二社で共有したものである。

呪文の例

呪文 効果
《火の矢よ!》 火の矢を飛ばす。《ファイアボルト》に準ずる。
《冷たき氷の礫よ、拡散せよ!》 広範囲に強力な氷弾を飛ばす。《フルオルアイスバレット》に準ずる。
《大いなる癒やしの輝きよ! 飛べ!》 遠距離の対象の傷を非常に大きく癒やす。《エクステレキュア》に準ずる。

律詩術は、自由な会話に詠唱を混ぜ込むために作られた、実戦的かつ応用的な規格式である。相手に呼びかけたり、仲間へ指示を出したりする言葉の流れに、術式を織り込める。

自然な言い回しであっても、言葉とマナ操作が結びついた発動手順であることは変わらない。術者は、会話を続けながらその手順を実行している。

言葉と術式

三つの規格式では、同じ効果を違う形の詠唱で実現できる。上の例でも、火の矢、広範囲への氷弾、遠距離への強い治療は、それぞれ対応する性能を持つ。詠唱の長さや見た目だけで、術の強弱が決まるわけではない。

また、規格式を共有できることと、呪文を聞いた誰もがその場で使えることは別である。術者は言葉に対応するマナ操作を習得する必要があり、行使には資質や、適合する装置などの条件が関わる。規格式が整えたのは、術を理解し、組み立て、他者へ伝えるための共通の手順である。