EX ザ・カーテンコール
狩船アディス・フォリャーの、端の端。
遺棄された墓場。思念体やゾンビがうろついている。
彼らは私に一瞥もせず、ぼんやりと浮かんだり、あるいは歩き回ったり。
『博士』の信号を受けて、私はこの墓地を訪れた。
こういった呼び出しは、一度や二度の話ではない。
百や千では、足りないくらい。
何度も、何度もあった。
今が星間歴3821年。
暦が作られる前から、何度も。
私にも博士にも、寿命はない。
私は、機械だ。
自我持つ人型機械。クリムゾンメタルの外装に、ライムグリーンの走査光。
博士は、怪物だ。
【世界に署名されし者】と題された、【特異】保持者である。
神に祝福されたか、呪われたか。
どちらにしろ、私を呼んだからにはまだ生きている。
信号は、墓の下から発されていた。
持ってきたショベルを使い、ため息をつきながら土を掘る。
墓荒らし。もう慣れた。
汚い仕事だが、世界に必要な仕事だと言い聞かせた。
「しかし……」
独り言だ。
博士が死に、リスポーンさせられたということは。
博士を殺せるものがいた、ということになる。
確か、ここしばらくは涜船エグジラに滞在していたはずだ。
「ふむ」
答えは、おのずと出た。
エグジラは幻想公司とコーポ・アレスに星ごと潰された。
この宇宙において、知らぬものはない。
あの戦争は、とんでもない大ごとだった。
例えば、オブリビオン社はグリム・スケイル社と取引があった。魔物素材の融通。
シャドウフェン社もそうだ。こちらは、実験体の一部を売買していたはず。
今頃、各社の幹部は頭を抱えていることだろう。
戦争がはじまり、たった一日で片方が壊滅して終わった。
これは|有り得ない《・・・・・》と言っていい大惨事だった。
余程の相性差がなくば、こうはなるまい。
しかし、今の私――ユアンスウには――その相性差とやらが皆目見当もつかなかった。
カチッ。
六フィート掘り終えて、棺に当たる。
いきさつは、本人に聞くとしよう。
棺の中から、くぐもった声がした。
「おーい! 居るんだろう? 返事をしてもらえんかね?」
黙って棺を持ち上げ、乱雑に地面へ投げつける。
年季の入った棺はぼろぼろに砕け、そこからペストマスクの怪物が転がり出る。
「げっほ、げほ! もうちょっと丁寧に扱え! 死人だぞ」
死人は、生者より雑な扱いを受けがちでは?
そう脳内で問うや否や、博士はというと即座に起き上がって、私の脛を蹴りつけた。
痛覚、遮断済み。
「ユアンスウ、現在位置は」
「ミルフィッカ兄弟領、狩船アディス・フォリャー中緯度帯」
「ああ、そうか。道理でアンデッドがそこら中にいるわけだ」
ゾンビたちは、なんとなく博士を眺めている。
「散れ散れ。私を食っても美味くないぞ」
アンデッドの連中は目をそらし、再びあたりをさまよい始めた。
勝手に話される前に、こちらからいきさつを聞くとする。
「で、今度は何があったのでしょうか。マスター」
「色々、だな。目的は達成した。知己とも会えた」
「知己」
私に眉があれば、ひそめていただろう。
「具体的には」
「カワイイスパイス」
「……!」
私としても、知らぬ顔ではない。メモリーの奥底に、顔写真。
『前の世界』では、何度か共闘したことがある。
彼女も、【特異】保持者だったはずだ。
メモリーの中の彼女からは、想像がつかない。
かつては一般的な戦闘員にとどまる程度の腕前だった、気がする。
「同一個体、と見るべきでしょうか?」
「まさか。あっちは私の顔も覚えてなかったさ」
「そうですか」
それもそうだ。
『前の世界』とこの世界は、ほとんどリンクしていない。
それから博士は、エグジラでの顛末を簡単に話した。
そのうえで博士は、『前の世界』と似たような彼女を見出してなお、彼女の人生を書き換えたと話す。
寒気がする。博士に情があれば、このような暴挙に至るまい。
しかし博士に悪意があれば、カワイイスパイスは死んでいるか、悪ければあの場で“所有”されていただろう。
わからなかった。
わからないまま、私は博士に付き従っている。
「私からも質問だ、ユアンスウ。現在の相対戦力値は」
「二万四千パーセントを超えました。そのうち七十パーセントは、昨日上乗せされたものです」
つまり、カワイイスパイスの覚醒が、大きく戦力を押し上げたということだ。
「上々だ。襲撃予定時点に変更は?」
「六年後の三月。日単位での誤差はあり得ますが、月単位では動きなし」
「それも、上々だ」
博士は端的に言えば、見えるべきものではないものが見えている。
その視界のうちいくらかは、私に計器という形で移植されている。
「……博士」
「なんだろう?」
「戦力構築は、もはや過剰に過ぎるかと。そろそろ、お休みになられては?」
私のほうから提案することは、あまりない。
しかしどうも、今の博士は普段より疲れて見えた。
「ふむ」
博士は、熟考する。
「休み方がわからんな」
「……全く」
しょうがない人だ。
「らん様にコンタクトを取ります」
「なんだ? そんなに私を休ませたいのか?」
「ええ」
答えを聞かず、私とらん様を結ぶ直通信号を打つ。
政船ユピテル。あらゆる企業の緩衝地。
そこに、この世界の神がいる。
「そうだな、今回は君の言うとおりにするとしよう」
「進めておきます」
「私の体調管理は君の仕事だ。サボるなよ」
「承知しました」
マナの信号が、空へ飛ぶ。
それは、遠く、遠くへ飛んでいき、すぐに見えなくなった。
【完】